◆第1回 社会課題をマーケティングする(前半)


 日本中退予防研究所を語る前に、まず運営団体であるNPO法人NEWVERYについて語りたい。

 NEWVERYは2002年に設立された前身の団体が2009年に法人化した「社会的企業」である。「若者たちが未来に希望を持てる社会」をビジョンに掲げ、フリーター・ニート・ひきこもりなどの若者を支援している。

 日本中退予防研究所を設立するに至ったのは、対処療法的に若者たちの社会復帰を支援していくことに限界を感じたからだ。自分たちが取り組む社会課題を根本的に解決するためには、若者たちが社会的弱者に転落することを未然に防ぐ必要があると考えた。

 そこで、手始めにニートになる過程を調査した。その結果

 1)離職後にニート
 2)教育機関卒業後にニート
 3)教育機関中退後にニート

 の3つしかプロセスがないこと、なおかつ、ニートの31.7%が何かしらの教育機関を中退していることが判明した(社会生産性本部調べ)。また、教育機関からの中退に対する解決の動きは当時それほど活発とは言えなかった。そこで、教育機関からの中退を未然に防ぐ取り組みに着手することを本格的に検討し始めた。


「規模」「リスク」「変容可能性」の3点から大学・専門学校中退問題を選択

 それでは、何故我々は「高校」中退ではなく「大学・専門学校」中退から取り組みを始めることにしたのか?

 結論から言えば、高校中退よりも大学・専門学校中退に取り組む方がより高いソーシャルインパクトが期待できると考えたからだ。我々「社会的企業」の特徴は、ソーシャルインパクトの追求を最優先するところである。

 ソーシャルインパクトの最大化を考える際ポイントになるのは以下の3点である。

 第1に「規模」。高校中退者が年間6.6万人に対して、大学・専門学校中退者は年間11.6万人にも及ぶ(NEWVERY調べ)。大学・専門学校中退者の規模は、高校中退者の約1.75倍にあたる。

 第2に「リスク」。大学・専門学校中退者の内、男性54.1%、女性63.4%が中退後一貫してフリーターか無職となっている。しかも、驚くことに、男性においては中卒・高校中退者よりもその後の推移は悪いのである。男性の中卒・高校中退者がその後一貫してフリーターか無職である確率は46.3%である。ちなみに、中卒・高校中退の女性は85.5%(※)。労働学では女性の方が学歴が「利く」という表現が使われるが、学歴による格差は男性よりも女性の方が大きく出る。


(※ 文部科学省 中央教育審議会 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」より引用)

 第3に「変容可能性」。当法人が中退経験者101名にインタビュー調査を行ったところ、大学・専門学校中退者に比べて中卒・高校中退者はより複雑な事情を抱えているケースが多かった。ちなみに、大学と専門学校との比較では、専門学校中退者の方が全体的に事情は複雑である。しかしながら、多くの大学・専門学校中退者はどこにでもいる「いたって普通の若者」であった。教育機関の努力次第で中退を未然に防げる可能性は、高校中退よりも高いと結論付けた。

 つまり、大学・専門学校からの中退の方が高校中退より「規模」が大きく「リスク」は同等で「変容可能性」は高い。限られたリソースの活用先としてより適切であると判断したのだ。

 現在、日本中退予防研究所では、大学・短大・専門学校の中退率を2016年度までに半減(2008年比)させることを目標に活動している。到底私たちだけでは実現不可能な目標だが、大学・短大・専門学校、国、行政、企業、NPOなどが問題解決へのシナリオを共有し、協力して取り組めば、決して不可能な目標ではないと考えている。

 我々「社会的企業」は、夢や目標を持つと同時に、現実的且つ戦略的でなくてはならない。ソーシャルインパクトと実現可能性から考えて、大学・専門学校の中退問題は、いま最優先に取り組まれるべき社会課題である。

(次回につづく)

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