◆第2回 社会課題をマーケティングする(後半)


 昨年、日本中退予防研究所では大学・専門学校からの中退者の実態を精査するために高等教育機関中退経験者101名へのインタビュー調査を実施した。その結果を『中退白書2010 高等教育機関からの中退』にまとめている。

 高等教育からの中退というと経済的困窮や疾患・障害、妊娠・結婚をイメージする人が多いかもしれないが、それらの比率は全体の2割を下回った。残りの8割は

 1)学生の学力レベルと教育水準のミスマッチ
 
2)学生の興味と教育内容のミスマッチ
 
3)授業・教員に魅力がなかった
 
4)コミュニケーション不全

 による中退が占めていた。

■中退の理由(複数回答)

『中退白書2010 高等教育機関からの中退』より)

 ほぼ同様の結果は、昨年、首都圏にある4年制私立大学(以下、A大学)をコンサルティングした際にも表れている。卒業までに学生の20%近くが中退するA大学において、過去2年間の中退者を追跡調査したところ、「経済的困窮」を理由に中退した学生の割合はわずか9%に留まった。事前に用意されていたA大学の内部資料では、中退者の40%以上が「経済的困窮」を理由により大学を辞めていた。この追跡調査では、中退者一人に対し個別で2時間前後の対面インタビューを実施し、中退に至った“本音の理由”を聞き出することを試みている。

 どちらのインタビューでも、冒頭の30分と終盤30分で中退した理由に変化が見られた。具体的には、インタビュー冒頭では「経済的理由」や「他にやりたいことができた」が理由として多く挙げられたが、インタビューが進むにつれて「授業がつまらなかった」「友達ができなかった」「教員と合わなかった」という理由がより多く挙げられるようになった。当研究所ではこの変化を「調査員に対して一定以上心を開いたため」と捉えている。

 A大学での調査は、原因と打ち手の間にミスマッチングが発生している可能性があると考えた大学トップの判断によって実施された。A大学では過去数年、経済的困窮者への支援を強化する対策を打っていたが、中退率はむしろ増加傾向を辿っていた。

 調査後、A大学では経済的困窮者への支援から、大学内での居場所作りや大学生活における目標設定の支援に対策の軸足を移し、1年生の中退率を大幅に減少させることに成功している。

 A大学に限らず「経済的困窮による中退者が多い」という話はどの大学・専門学校に行っても聞くが、果たしてそれは本当だろうか?当然だが、中退者が抱える事情や中退のボリュームゾーンを正しく認識していなければ、対策を十分に機能させることは難しいだろう。


●中退率は、顧客満足度のバロメーター


 ところで、インタビュー調査の過程で中退者の口から頻繁に聞かれたフレーズがいくつかある。その一つは「中退しても何とかなると思っていました。でもなんともなりませんでした。」である。200人近い大学・専門学校中退者と直接会って話を聞いてみたが、彼・彼女らの多くは中退自体を後悔していた。大学・専門学校中退のリスクは中卒・高校中退のリスクとほぼ同レベル(第1回コラム参照)だが、その事実が広く社会にアナウンスされているとは到底言いがたい。学生および大学・専門学校関係者の皆様には、中退後「過去」を前向きに捉えている若者が少ないことも知っていただきたい。

 また、「中退」は学生や社会だけでなく、教育機関にも悪影響を及ぼす。高等教育機関は収入の多くを学生からの学納金に頼っているが、中退者が増加すればそのぶん収入を減らすことになる。高い中退率は風評被害を生み、受験生の減少にもつながる。加えて、学校を去る学生のうしろ姿は、教育熱心な教職員のモチベーションを下げることになる。「中退」は教育機関にとって極めて高い「リスク要因」なのである。

 これまでの活動から、「中退率」とは教育機関における「顧客満足度」(教育に対する満足度)のバロメーターであると本研究所では結論付けている。退会率の高いスポーツクラブの顧客満足度がほぼ例外なく低いのと同様である。

 そうであれば、中退率を下げるための取り組みは大学・専門学校の「教育改革」(=教育力の向上)そのものであり、中退率の低下は「就職率の上昇」という副産物をもたらすことにもなるだろう。

 なぜならば、現在起きている新卒者の就職難は

 1) 学生の大企業志向
 2) 企業の厳選採用


 が同時に起きている結果だが、大企業の内定を得られない学生が中小企業に目を向けたとしても、その学生が中小企業の採用基準に達していなければ内定には至らない。つまり、現場では中小企業の採用基準にすら学生が達しないという、より深刻な問題が起きているからである。

 私たちは「中退率」を成果目標に置き、中退対策に取り組んでいくことで、日本の高等教育機関における教育力の向上に寄与し、中退者という社会的弱者への転落予備軍を減らすだけでなく、新卒者の雇用問題や就職後の早期離職問題にもインパクトが与えられると考えている。

(次回に続く)

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