第1回カリキュラム対談 嘉悦大学×九州国際大学法学部(後編)

 第1回目の対談では、嘉悦大学から田尻慎太郎先生、九州国際大学法学部から山本啓一先生をお呼びしています。
 前編では学生たちの特徴や、大学生活全体を想定したカリキュラムデザインや居場所づくりの重要性についてお話して頂きました。後編では、学生がカリキュラムの意図に沿って動くにはどのような工夫が必要なのかをお話して頂きます。

――前回は学生の特徴についてお話して頂きましたが、大学のもつ理念によってもカリキュラムにどれくらい自由度をもたせるかは変わってきますよね。カリキュラムの自由度は何を判断基準にされましたか?

田尻:以前のカリキュラムでは2学科あり、その中に5コースありました。そのコースごとに卒業要件が異なり、必修科目が違っていました。「コースがこんなにありますよ」というのをウリにしていたわけです。
 しかし学生にとっては「違うコースの科目だから履修できない」ということがあった。コース間の壁が多く、そのコースにマッチしないと卒業が難しかったのです。
 それは、紙ベースで見れば美しいカリキュラムなんですよ。しかし、その中で実際に学生が思ったように動いてくれない。必修で挫折するとか、別のコースに移りたくなっても必修科目の取り直しという負担は避けたいとか、制約が大きかった。我々としては、その制約を一度取り払わないと何も始まらないと考えたのです。
 何かのテーマを扱う時、例えば環境問題といったときに、科目の枠に収まるわけではないですよね。NPOをテーマにするとしたら、企業経営や簿記だって必要になる。しかし壁がそれを邪魔していた。
 また、組織の体力的にもきついものがありました。5学部抱えているようなもので、非常勤に頼る部分もあり、専任教員だけではやりきれなかったのです。

山本:自由にしすぎた、という側面はありませんでしたか?

田尻:そうですね、一年生なのに基礎を飛ばして応用の授業を履修してしまう現象は実際に発生しています。確かにそれはあまりよくないことなのですが、しかし採点してみると、勉強しない4年生よりも、勉強する1年生の方が基礎を履修していなくても成績がよかったりするんですよね。なので、あくまでも学生によるところはありますが、それほど問題はないんじゃないかというのはあります。
 メリットは、旧来取らなかったような科目をとるようになったこと。他コースや他学年の科目であったような科目を気軽にとるようになりました。あと、苦情が減りました(笑)いつも「時間割的に、取りたい科目があるのに取れないんだけど」というのがあった。それがほぼゼロになったんです。職員たちもそれは喜んでいました。

山本:様々な面で変化が起こったんですね。
 法学部では伝統的に、体系的・網羅的に多数の科目を用意できることが学部としての存在価値と思われてきました。その上で、どのように学生が学習すべきかというと、当然ながら積み上げ式です。体系的に履修することが望まれています。
 しかし現実として多くの学生がどう動くかというと、楽勝科目をとってしまい、体系的には全く履修しないわけです。体系的に履修できるカリキュラムを用意しているのに、実際は体系的に履修させることができていない。そこで、法学部としてふさわしい知識や能力を学生につけさせるためには、どんな科目をどんな順番で履修するのか、ということを担保する仕組みが必要だと考えました。とくに1年生ですね。嘉悦大学でやっていることとほぼ同じなんですが、1年生の前期は、ほぼ時間割が決まっているという仕組みです。

田尻慎太郎氏(左):嘉悦大学経営経済学部専任講師。教務センター長及びキャンパス整備担当としてカリキュラム改革、アクティブラーニング教室の導入、大学院・新学部開設など矢継ぎ早の改革を支える。 | 山本啓一氏(右): 九州国際大学法学部教授。2004年より退学防止を狙った新入生研修プログラムを手がけたほか、2006年からは大学に隣接する商店街においてゼミや講義、カフェ運営等を行い、現在は地域連携活動に関わる。学部長として初年次教育改革学部教育改革を手がけた。
 また、科目の選択性が広いと、合間を縫うように履修することになる。それで、開講科目数を減らそうとしています。約80科目あったのを、約40科目まで減らすつもりです。そうなると、学生はすべての開講科目を履修しないと卒業できなくなります。つまり、事実上、専門科目はほぼ必修化ということになるわけです。
 逆に嘉悦大学では自由度が増しているのだと思いますが、自由に履修できる環境を学生が活かすためにはどのような工夫が必要だとお考えですか?

田尻:はい、コースの壁をなくして自由にしたとはいえ、そのまま野放しにするのではなく、初年次教育において履修サポートをしています。卒業する時や就職活動の際、「大学で何を学んだか」を自分の言葉で語れるようになってほしい、というのがあります。
 また、学生生活のベースとしてゼミが重要です。選択科目が自由で、しかも嘉悦は広い分野の科目を取り揃えているので、ゼミでやっていることが自分の専門、つまり「大学で学んだこと」の軸となるわけです。
 そこで納得のいくゼミの選択ができるよう、ゼミ選択フォーラムを行なっています。学会などのポスター発表のような具合で、体育館で教員やゼミ生が説明するのを1年生が見て回ります。
 しかしそれを一回やるだけでは足りないので、基礎ゼミの中で専門ゼミの紹介をしたり、SAが自分のライフストーリーを話しながら、ゼミの紹介をするというイベントもやっています。1年生が15分ごとにいろいろなSAの話を回って聞きに行くんです。先輩であるSAたちは等身大のリアルな体験談を語ってくれるので、それが学生にとても響くようです。
 では私もお聞きしてみたいのですが、KIU法学部のように自由度を下げたカリキュラムを学生がきちんとこなすためには何が必要だと思われますか?

山本:そうですね、必修化を進めるならば、同時に学生自身がひとつひとつの科目の意味を理解する必要があります。そうでなければ、主体性が失われてしまいます。
 もうひとつ重要なのは、相互FD。この科目ではここまで教えるとか、ここまで教えて下さい、というのを相互に把握しておく必要があります。そのためには、例えば、シラバスの達成目標は教授会の承認事項にするべきなんです。積み上げ式という性格が強くなるほど、これは重要となります。
 また、これは計画段階ですが、学生の指導はキャリア・チュートリアルという科目で取組もうと考えています。少人数クラスで週45分だけ、履修指導、生活指導、就職指導を行うんです。正課外にするかどうか迷いましたが、全員を対象とするためには正課でやる必要があるでしょうね。

田尻:それについてですが、松本大学さんでは、普通の大学ならガイダンスで終わらせるようなことを1つの科目としてきちんとやっているようですよ。履修だけでなく、キャリアセンターの使い方なども扱うそうです。