第2回カリキュラム対談 国際基督教大学×立教大学経営学部(後編)

 第2回目の対談では、国際基督教大学から西尾隆先生、立教大学経営学部から日向野幹也先生をお呼びしています。
 前編では学生の特徴や、カリキュラムの自由度についてお話し頂きました。後編では、学生理解の上で心がけることや大学改革についての考えについて、お話し頂きます。

――お二人のお話を聞くと、学生が成長してゆく姿が見えてきますね。普段から学生との接点を大事にされていると思いますが、学生を深く理解するために気をつけていることはありますか。

西尾:制度化されているものとしては、授業でコメントシートというA5サイズの出席表のようなものを配っています。そこに質問でもコメントでも感想でも書ける。それでいろんなことが把握できるんですね。先生によっては、授業内容についてというよりも、今日は一般教育について意見を言ってくれとか、トピックを特定することもある。それを全部文字に起こしてネット上にアップする先生もいます。

日向野:我々も制度としては大学がやっている評価アンケートとは別に、SAに学生を3、4人選ばせて、座談会をやるんです。それを記録して業者に出して、完全に匿名化してから教員に見せる、というのをリーダーシップ・プログラムのどの科目でもやっています。
 自分のクラスかどうか分からずに見るわけですが、それを見ると非常に勉強になるんですよ。リーダーシップの授業は常に双方向なので、学生がどういう動機で授業に来ているかというのを知らないと授業を組み立てられないわけです。決して学生の満足度を高めるだけの目的ではなく、効果的な授業のためのフィードバックとして行なっています。

日向野幹也氏(左):立教大学経営学部教授、ビジネス・リーダーシップ・ プログラム(BLP)主査、立教大学リーダーシップ研 究所所長。BLP 開始直後は主査、教員、事務局の三役を務め、2006 年より現職。 | 西尾隆氏(右):国際基督教大学教養学部長。国際基督教大学大学院 行政学研究科長、サービス・ラーニング・センター長を経て、2009 年 4 月より現職。
 その延長線上ですが、学生に対しては授業でも生活でも不満があった時それはチャンスだというふうに教えています。自分をリードするのはもちろんのこと、次の段階は誰かを巻き込んで提案することだと。だから不満を提案に変えて持っておいでと。実際に提案を持ってきたら必ず聞いて、一部実現したりもしているんです。それを通じて学生のこともわかるし、同時に意欲も引き出せているかなと思います。

西尾:ただ、私自身は学生のことを知らないと思うことが多いですね。
 例えば以前卒論合宿をやったときに、自分の発表が終わったらすぐ帰っちゃう学生がいたんです。それは和太鼓部のサブリーダーでした。後日、卒業公演で来てくれと言われて見に行ったのですが、まさに圧倒されましたね。これほどのパフォーマンスをやるのなら、確かに卒論合宿を早退せざるを得ないし、その価値はあるかもと思ったんです。
 そうした活動がカリキュラム内のものであれば点数やリポートとして提出されるわけですが、サークルやボランティアはそうじゃない。そうじゃないことが多いから、学生の生活全体については知らないことばかりだなと思います。

日向野:そうですね。わかっているつもりでも、わかっていないことがあります。なので、その都度認識を修正する必要があります。個人的には学生とよく食事に行ったり、ウェルカムキャンプで一緒に仕事したりという機会も多いし、SAのミーティングに同席することもあります。成績をつけるのではない、非公式の付き合いというのは、学生を知るにはとてもいい機会です。それで信頼関係ができていると、ポロッと学生が本音を言ってくれるので、そういうところが大事ですね。公式のルートだとめったに本音は聞けないものですから。

――そんな学生たちに、どう成長してほしいとお考えですか?

日向野:私はリーダーシップ教育をやっているのでそれに絡めると、高校生までで彼らは徹底的に消費者になっています。そういうスタンスで大学に来ると、どっちの授業をとろうかなとしたときに、楽なほうとか、明らかに将来役に立つほうとか、そういうものを選んでしまう。そして、一旦受けたのに途中で返品(履修取消し)するとか、返品できなければ口コミで悪く言うとか、非常に消費者的な行動をするのです。
 リーダーシップ科目教員としてはそれを変えなきゃいけないわけで、不満があったら提案に変えて、誰かを巻き込んで運動を起こしてもらう、というのが教育的にも効き目があることだと考えます。
 リーダーシップは日常の生活でも生かしてほしいし、専門知識を学ぶために仲間を巻き込んで勉強会する、ゼミの先生に提案する、などと活動して、リーダーシップという前輪駆動で専門知識という後輪も強くする、そんな学生生活を送ってほしいですね。

西尾:リベラルアーツ教育の目的は偏見や囚われから解放することといえます。ICUでは、自分の中の偏見や障害を取り除くようなきっかけをぜひ掴んでもらいたいですね。
 学問は真理や自由を知る喜びがあると思うんです。どう役に立つかはわからないが、それを経験するとそれ自体がすごく素晴らしいものだと。学部時代のそうした体験を、社会に活かしてもらいたいと思うわけです。
 ICUでサービスラーニング(海外や地域での奉仕活動を通した学び)をやっているのは、現実に触れながら学ぶことが重要だと考えるからです。すると教師はだんだん触媒的な役割になってきて、知識や真理を伝授するというよりも、学生が自ら学び発見することを助ける役割になってゆくのです。同時に、自分たちも学生に負けないように何か新しく刺激的なことを発見しないと、と思えてきます。
 ICUでは新任教員に対し、何より教育に熱心に取組んでほしいと伝えますが、それは研究を犠牲にしてまで教育をやれという意味ではなく、教育の中には研究に役立つ要素があるのだということを知ってもらって、教育に専念してもらいたい、という意図があります。

――教育こそが研究を深めるきかっけになるということは、ぜひ多くの先生にも実感して頂きたいですね。それでは最後に、大学改革に携わる方々へ一言お願いします。


日向野幹也氏(左)と西尾隆氏(右)
日向野:経営学という点で言いますと、ジョン・コッターの「成功のための8段階」という図式がありまして、それがよく当てはまると思います。
 初期段階とされるものが特に重要で、組織の中で危機感をまず共有するということです。なぜ危機なのか、どこが危機なのか、というのを共有しないと始まりません。
 我々の学部は首都圏の経営学部としては最後発ですから、それに埋もれてはいけないという危機感は共有していました。

西尾:一体何が問題で、それをどう解決するかを、リアリティと説得力をもって話せる必要があるでしょうね。こう変えることによって何が変わり、何が解決するのかということを、なるほどそうなのか、と思わせないと実質的な改善にはつながりません。学生たちの学ぶ現場を知り、問題を把握してビジョンをもって語れることが大事だと思います。

日向野:そうですね。そして小さな成功があれば、組織内で次第に支持者が増えると思います。そのとき、それまで消極的だったり反対していたような人も迎えて、少しずつ改革を持続していく方にシフトしていくような順番が理想ですね。
 他校のまねをしようとするのは、「急激な変革を取り入れれば2年後には変わるだろう」といった発想が背景にあると思うのですが、そんなにすぐには結果は出ません。ベンチャー企業みたいなもので、成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。そういうことをトップが容認していないと中途半端になる可能性があります。

西尾:一番簡単なのは今の制度のままで一部だけ変更する、つまり改善することではないでしょうか。教員を増やす、新しい要素やプログラムを加える、など。カリキュラムの全面改定でなくても、打てる施策は少なくない。
 それから他校の模倣も、その成功事例の背景にある条件をよく理解してないと、簡単ではありません。模倣ではなく転用というのがありますが、以前ICUの図書館は本の蔵書チェックのために計3週間は閉館していたんです。それが今は、夜の閉館の時間だけでほとんど終わるようになった。それは、デパートの棚卸システムを業者が取り入れて応用したんです。
 そういうわけで、カリキュラム改革を大げさに考えずに、何かを少し付け加える、他大の例を参考にする、組み合わせを変えたり転用してみる、という方法でかなりのものが変えられると思います。

――ありがとうございました。

 ※国際基督教大学、立教大学経営学部における取組みの詳細はレポートでご覧頂けます。