◆第3回 課題解決のシナリオ(前半)
過去2回のコラムでは、大学・短大・専門学校の中退問題にフォーカスする根拠を述べた。今回は2016年度までに日本の高等教育機関の中退率を半減するシナリオを共有したい。
大学・短大・専門学校からの中退者は年間約11万7000人(NEWVERY調べ)。その原因別内訳(推計値)は以下の通りである。
(1)経済的困窮 10%
(2)疾患・障害 8%
(3)妊娠・結婚 2%
(4)学習意欲の喪失 (4)~(8)で80%
(5)学力不足
(6)将来不安
(7)人間関係からの孤立
(8)人間関係でのトラブル
先月(2011年10月)、文部科学省が12年度予算で要求している大学生に対する給付型奨学金の内容がわかった。予算が通れば、2万1千人の大学生に、月額5万円程度の給付が可能だ。無利子奨学金や授業料減免制度と併せての給付が可能だから、こちらは修学のための生活費にできる。
一方で経済的困窮による中退は10%で、年間約1万2千人。「経済的支援の必要性」に応じて、つまり、必要な支援が必要な人に届けられれば、この施策が与える(1)経済的困窮による中退へのインパクトはかなり大きいものになるだろう。当研究所では設立年度から政府に対して中退状況改善のための様々な政策提言を行っているが、給付型奨学金については今後より一層強く行いたい。
次に(2)疾患・障害について。これは既に対策を始めている。
我々は2009年4月に東京スポーツ・レクリエーション専門学校(東京都西葛西)に新設された「キャリアデザイン・コミュニケーション科(以下、CC科)」の立ち上げを支援した。CC科は、学習意欲やコミュニケーション等に課題がある高校卒業予定者や、全国の大学・短大・専門学校を中退した学生を受け入れ、進学または就職へと接続するセーフティネットの役割を果たすことをミッションとした、言わば「準備教育」の場である。設立3年目を迎えても未だに教育面での試行錯誤は続いているが、熱心な先生方のご努力の賜物で、学生たちの卒後の状況はかなり良好だと言える。
CC科は現在、東京、埼玉、札幌、福岡で開講されている。東京スポーツ・レクリエーション専門学校は、日本最大の専門学校グループである滋慶学園グループの傘下に属しており、本科を姉妹校に展開したのである。
これが先駆けとなって、CC科と同種の学科を作ろうという動きが最近見られるようになった。中退リスクがあまりに高い学生は高校段階で教員がモニタリング可能であることが多く、また、中退後のキャリア形成を支援する社会制度構築も重要な社会課題の一つである。それは疾患・障害があっても高等教育を受けられる教育のバリアフリー化が進みつつあるともいえるかもしれない。
CC科には既にかなりのノウハウが蓄積されており、今後は学会発表などを通じて、広く社会で共有していきたいと考えている。
(3)妊娠・結婚に対する具体的な処方箋は3つある。1.性教育の強化 2.学内託児所の普及 3.低用量ピルの普及 ある。
日本の大学は既にユニバーサルアクセス時代を迎え、20歳前後の若者たちだけのものではなくなりつつある。子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層の人たちが学ぶ生涯学習の中核組織として、社会から大変な期待をされている。その中には当然、妊婦や育児中の母親や父親も含まれている。社会人学生の比率は年々上昇傾向にあり、大学は今まで以上に多様な学生を受け入れる準備を始める必要があるだろう。とりわけ学内託児所の設置は、大学が既存顧客のドロップアウトを防ぎ、新たな顧客を迎え入れる上で、欠かすことのできない「準備」の一つであると筆者は考える。
今はまだ時期尚早かもしれないが、当研究所では、学内託児所の設置に対する補助を政府、文部科学省に提案していきたいと考えている。
子どもは社会の宝である。
ここまで全体の20%を占める(1)(2)(3)の中退に対する解決策と当研究所のアプローチ方法について述べた。
次回は、残りの80%の中退について原因の「本質的な課題」と「対策」を掘り下げ、「2016年度までに中退率を半減する」という目標が決して夢物語ではないということを確認したい。
(次回に続く)
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